INSPIRE JAPAN WPD 2017報告書

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1. はじめに

「世界乾癬デーに東京タワーをオレンジとブルーにライトアップしてみたい…」
そんなとてつもない発想からこのプロジェクトは始まりました。

2004年,International Federation of Psoriasis Associations(IFPA)は全世界1億2,500万人の乾癬とともに生きる人々のための日として毎年10月29日を「世界乾癬デー(World Psoriasis Day)」と定めました。世界乾癬デーは,1) 乾癬という重篤な疾患の認知度を向上させるとともに乾癬は人々の生活に様々な影響を及ぼす疾患であるという認識を高め,2) 乾癬に関する誤解や偏見を払拭するために正しい情報の普及・啓発を行い,3) 乾癬のある人々が適切な治療を受けられるような働きかけを行い,4) 乾癬のある人々が社会に向けてそれぞれの夢や希望などを発信するきっかけとなることをめざしています。

毎年,IFPAはその年の世界乾癬デーに向けたユニークなテーマを設定します。そのテーマは乾癬に関する特定の課題に目を向け,世界各地での活動を促進させます。また,テーマに関連し,それを補完するいくつかのコミュニケーションメッセージもあわせて設定されます。2017年の世界乾癬デーのテーマは「Psoriasis Inside Out」,コミュニケーションメッセージは「Pso Many Sides」と「Pso Me」(「Pso」は「Psoriasis」と「So」をかけたものです)で,乾癬は単なる皮膚疾患ではなく,関節炎や重篤な全身性疾患を併発するリスクが高く,心理・社会・経済的にも深刻な影響を及ぼし,また,乾癬のある人々の日々の生活に極めて大きな影響を与える疾患であることを知ってほしいというメッセージが込められています。

乾癬は銀白色の鱗屑をともなう境界明瞭な紅斑と表皮の肥厚を特徴とする皮疹が生じ,軽快と増悪を繰り返しながら慢性に経過する免疫介在性の炎症性角化性皮膚疾患で,感染症ではなく人から人へうつることはありませんが,現時点で根治治療はありません。日本では少なくとも50万人以上の人々に乾癬があると推計されています*)。
*) 照井正,中川秀巳,江藤隆史,小澤明:健康保険組合レセプト情報を利用した乾癬の実態調査.臨床医薬,30(3):279-285,2014

 

2. INSPIRE JAPAN WPDプロジェクト

乾癬のある人々,特に乾癬は一生治らないと言われて治療をあきらめて引きこもったり,乾癬に関する誤解や偏見のために社会から疎外され孤立したりしている人々をエンパワーしたい,日本における乾癬の認知度と理解度をもっと向上させたいという強い想いを持つ乾癬患者会の有志6人(奥瀬正紀;神奈川,大蔵由美;東京,添川雅之;東京,田中政博;福岡,角田洋子;群馬,山下織江;栃木)が,日本もIFPAメンバーとして世界乾癬デーに何か今までやらなかったことをやりたい,それを世界へ向けて発信したいと考えているうちに,日本人ならば誰もが知っている日本のランドマークである東京タワーを世界乾癬デーのイメージカラーであるオレンジとブルーにライトアップしてみたい…という漠然としたアイデアが浮かんできました。その漠然としたアイデアはすぐに具体的な夢へと進化しました。この夢を実現させるためには迅速な意思決定と行動が必要であると考え,有志6人はプロジェクトチームとして活動を行うことにしました。そして,このプロジェクトを日本における世界乾癬デーの普及・啓発を促進させるという意味を込めて「INSPIRE JAPAN WPDプロジェクト」(WPD = World Psoriasis Day)と名付けました。

INSPIRE JAPAN WPDプトジェクトチームメンバー

 

3. 2017年の世界乾癬デーに向けての活動

2017年5月,東京タワーをライトアップしたいという夢を実現させることの目的や意義は,このころにはまだはっきりとした形になっていたわけではありませんでしたが,プロジェクトメンバーが共有していた課題は日本における乾癬の認知度をもっと向上させなければならないことと,乾癬があるために社会から孤立している人々、特に若い世代の人々をつないでいかなければならないことで,そのためにはこれまで日本の乾癬患者会がやってこなかったこと,つまり一般社会へ向けた情報発信と若い人々も楽しめそうなことをやらなければならないということでした。しかしながら,これは日本の乾癬患者会として別に組織を結成するということではなく、あくまで有志(プロジェクトチーム)として活動を進めていくということで,このことについては日本乾癬患者連合会(Japan Psoriasis Association;JPA)に理解しておいてもらう必要があると考え,2017年6月3日に仙台で開催されたJPA臨時代表者会議にて,世界乾癬デーに向けて有志で活動を行うことについて述べました。

プロジェクトメンバーは東京,神奈川,群馬,栃木,福岡とそれぞれ拠点が異なるためプロジェクトミーティングは原則としてSkypeで行うことにしました。2017年6月12日の最初のミーティングでは,世界乾癬デーのイベントやキャンペーンとして具体的に何をするかについてのブレインストーミングを行い,まずは採算を度外視してやってみたいことをリストアップしたところ,20件を超えるアイデアが出ました。その中で,東京タワーのライトアップ実現の可否とそのための資金調達方法などについて具体的に検討することとなり,世界乾癬デーに東京タワーのライトアップ実現の可能性を探るため2017年6月23日に澤田健氏(日本電波塔株式会社(=東京タワー)総合メディア課)を訪ねました。しかしながら,2017年10月29日は2020年の東京オリンピック1000日前のイベントが開催され,そのためのライトアップを行うことが決定していました。また,ライトアップにはかなりの費用がかかるため通常はスポンサーがついている団体でなければ実現はむずかしく,さらに東京タワーとしてはお金を出せば何でも引き受けるわけではないこともわかりました。そこで,私たちはなぜ東京タワーのライトアップをしようとしているのか,つまり日本における乾癬と乾癬のある人々の現状について私たちが共有している課題、そしてそれを何とかしたいという強い想いを澤田氏にぶつけてみたところ,まずは東京タワーのイベントスペースでのイベントを検討してみてはどうかという提案がありました。

JPAに対しては6月の臨時代表者会議でプロジェクトとして活動を行うことしか伝えていませんでしたので,改めてプロジェクトチームを結成したことと2017年世界乾癬デーのイベントプランについて,2017年7月5日にJPAメーリングリストで情報発信を行いました。世界乾癬デー当日の具体的なイベントの内容を検討しながら,資金調達のためのチャリティTシャツの制作,プロジェクトの口座開設,プロジェクト専用ドメイン取得などについてもミーティングを重ね,役割分担を決めて迅速に行動し,2017年7月28日の第5回プロジェクトミーティングまでにチャリティTシャツの仕様,制作数および制作費用の見積から販売単価を決定するとともに,受注から発送までのプロセスの検討とそれにともなう口座開設を完了し,チャリティTシャツ販促チラシの準備を行うことも決定しました。2017年7月30日にはプロジェクトのフェイスブックページをオープンするとともにプロジェクト専用メールアドレスも取得しました。そして,イベントの大まかなアウトラインも決定し,イベント名を「INSPIRE JAPAN WPD 2017」として,正式に東京タワーへイベント開催の申し入れを行うことにしました。

2017年8月,東京タワーのイベントスペース利用申し込みに必要な企画書を準備するため実際のイベント内容の検討を行いつつ,2017年9月8日~9日開催の第32回日本乾癬学会学術大会長の照井正先生(日本大学医学部皮膚科学分野 教授)に学会会場にチャリティTシャツ販促チラシを平積みで置かせてもらえないかと相談をしたところ,学会としてINSPIRE JAPAN WPD 2017を全面的に支援するという想定以上のありがたいお申し出がありました。具体的には,学会プログラムの合間にINSPIRE JAPAN WPD 2017の告知をする,学会会期中にチャリティTシャツの販売を行う,そして極めつけは学会懇親会のサプライズ企画としてプロジェクトメンバーによるバンド生演奏を行ってINSPIRE JAPAN WPD 2017を大々的に宣伝するというものでした。2017年8月20日に東京タワーへ企画書とともにイベントスペースの利用申し込みを行い,正式に東京タワーフットタウン2階のイベントスペースを確保するとともに,最近の若者はフェイスブックよりもツイッターやインスタグラムを好む傾向があることからツイッターとインスタグラムにもINSPIRE JAPAN WPDアカウントをオープンしました。すでにチャリティTシャツと販促チラシも完成しました。

2017年9月4日,自身のインスタグラムで乾癬があることをカミングアウトした道端アンジェリカさんへ,プロジェクトメンバーが心を込めて書いたお手紙を添えてチャリティTシャツを贈りました。2017年9月7日には澤田健氏と当日の具体的な計画についての打ち合わせを行い,2017年9月8日~9日に品川プリンスホテルにて開催された第32回日本乾癬学会学術大会では,予定していたとおり思う存分にINSPIRE JAPAN WPD 2017のプロモーションを行い,医師のみではなく製薬会社に対しても十分にアピールすることができました。勿論、チャリティTシャツの販売も好調でした。2017年9月15日の第9回プロジェクトミーティング以降,INSPIRE JAPAN WPD 2017のキー・メッセージの検討,配布・展示物と什器・備品の準備,イベント告知チラシの作成などを進めながらも,収支のことが気がかりになってきました。イベントにかかるすべての費用をチャリティTシャツ販売で得られた資金でまかなわなければなりませんでしたので,それまでに検討していたイベントを行うのに実際にどのくらいの費用がかかるのかを見積ると同時に,それまでに得られた資金を計算し,あとどのくらい資金が得なければならないのかを何度も試算しました。そして,改めて乾癬患者会の相談医の先生や製薬会社への支援の依頼を行いました。また,IFPA資材の翻訳を手伝ったり,配布・展示物のデザインを作成したり,ウェブサイトを準備したりと,プロジェクトメンバー以外の方々も積極的なサポートをしてくださいました。

2017年10月,世界乾癬デーまで1ヶ月を切りました。それまでもプロジェクトメンバーはそれぞれの本業などで多忙を極めながらもINSPIRE JAPAN WPDプロジェクトを進めてきましたが、10月は14日に第7回神奈川乾癬患者の勉強会,15日に群馬乾癬友の会10周年記念講演会・パーティ,21日に関節症性乾癬&膿疱性乾癬患者の集い2017,22日に若手皮膚科医向け勉強会でのプレゼンテーション,さらに11月5日には第20回とちぎ乾癬友の会学習懇談会など,所属する患者会行事の準備・運営を行いながらのプロジェクト推進となり,さすがに体調をくずすメンバーもいましたが,それでも毎週プロジェクトミーティングを行いながら最後の準備・調整を進めました。2017年10月17日にはウェブサイトがオープンし,また,これも照井正先生のお取りはからいでしたが,INSPIRE JAPAN WPD 2017当日にBS日テレの取材が入ることも決まりました。2017年10月26日には中川秀己先生(東京慈恵会医科大学皮膚科学講座 教授)ならびに江藤隆史先生(東京逓信病院 副院長兼皮膚科部長)を訪ね,INSPIRE JAPAN WPDプロジェクトの状況報告をするとともに,今後のご支援についても相談をしたところ,全面的にご支援をいただけるとのことで,極めて大きなバックアップとアドバイスをいただくことができました。

そして,2017年10月29日,台風22号(サオラー)が東京を直撃するなかで,日本で初めての乾癬のある人々による乾癬イベントであるINSPIRE JAPAN WPD 2017が東京タワーで開催されました。

 

4. INSPIRE JAPAN WPD 2017の成果

2017年10月29日,幸か不幸か,予定されていた東京オリンピック1000日前イベントは台風の影響で中止となりましたが,この日に東京タワー展望台へ上った人数は約5,000人(東京タワー調べ)だったそうです。その約5,000人のうちの大部分の人々がINSPIRE JAPAN WPD 2017の会場の前を通り,用意した1,000部のリーフレットのほぼすべてを配布しましたが,受け取ってくれたのは会場前を通る人の1/3程度だった印象でしたので,正確な人数は把握できませんが,恐らく,3,000人以上の人がINSPIRE JAPAN WPD 2017を見たことになります。また,「乾癬という病気について知っていますか?」というアンケートには約120人が回答してくれました。乾癬について「知っている」と回答したのはアンケート回答者の62%でした。アンケート回答者の約1/4はご自身かご自身の身内や友人に乾癬があるという人でしたが,その人たちのすべてが乾癬という病気を知っていると回答したとすれば,ご自身が乾癬でないと回答した人で乾癬という病気を知っていると回答した人は51%となります。勿論,この「知っている」には程度があると思いますが,約半数は乾癬という言葉さえ知らない(記憶にない)ということになります。当日には多くの外国人も通りかかり,声をかけたり,アンケートに回答してくれたりした外国人はほぼすべて乾癬という病気を知っていると答えました。コントロールされた調査における比較でありませんので,ただちに結論づけることはできませんが、やはり日本における乾癬の一般認知度は諸外国にくらべると低いと考えられます。しかしながら,前述のとおり,3,000人以上の人がINSPIRE JAPAN WPD 2017というイベントを見て,それが「乾癬」という病気に関する啓発イベントであることは認識してくれたと思います。

「ここに来れば乾癬仲間に会えるかもしれない…」,「今までインターネットだけが情報源だったから…」そんな思いで鹿児島,愛媛,富山など遠方からも来てくれた人たちがいました。決して大勢ではありませんでしたが、悪天候のなか、勇気をもって会場へ来てくれた人がいたことは何よりも嬉しく思いました。「つながれた」と思った瞬間でした。また,プロジェクトメンバー以外にもたくさんの仲間や友人たち,医療スタッフや製薬会社の人たちが当日の準備・運営を手伝ってくれましたし,You Tubeで配信した3回のトークショーを見てくれた人もいますので,本当にたくさんの人同士がつながった一日だったと思います。イベント終盤には,ちょうど同じ日に熊本で開催されていた第69回日本皮膚科学会西部支部学術大会を終えて羽田空港へ到着した照井正先生がその足で東京タワーへ駆けつけ,さらに,なんと道端アンジェリカさんがサプライズで登場してイベントに参加してくれました。

「世界乾癬デーに東京タワーをオレンジとブルーにライトアップしてみたい…」そんなとてつもない発想から始まったINSPIRE JAPAN WPDプロジェクトは,ライトアップこそかないませんでしたが,半年足らずの準備期間にもかかわらず,たくさんの人々からのあたたかいご支援とご協力を得て,日本で初めての乾癬のある人々による乾癬イベントを成功させることができました。改めて厚く御礼を申し上げます。ありがとうございました。

INSPIRE JAPAN WPDプロジェクトは今年で終わりではありません。すでにプロジェクトメンバーは来年に向けて活動を始めています。引き続きあたたかいご支援をよろしくお願いいたします。

 

5. 協力企業一覧(社名五十音順)

アクセーヌ株式会社
アッヴィ合同会社
日本イーライリリー
協和発酵キリン株式会社
株式会社ジェイ・アイ
資生堂ジャパン株式会社
田辺三菱製薬株式会社
ノバルティスファーマ株式会社
マルホ株式会社
持田ヘルスケア株式会社
ヤンセンファーマ株式会社
レオファーマ株式会社

2017 年 12 月 31 日 INSPIRE JAPAN WPD
プロジェクトチーム ウェブサイト:www.inspirejapan-wpd.net
メール:info@inspirejapan-wpd.net
代表 奥瀬 正紀(神奈川)
副代表 大蔵 由美(東京)
副代表 添川 雅之(東京)
副代表 田中 政博(福岡)
副代表 角田 洋子(群馬)
会計 山下 織江(栃木)
デザイナー 中村 慎一郎(東京)
ウェブエンジニア 竹下 尚宏(東京)

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